Interview
02
後編
北川一成( GRAPH )
加藤駿介( NOTA&design )
考え方やその本質は
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加藤:僕から北川さんにお聞きしたいことがあるのですが、北川さんの作るグラフィックって、いつも微妙なズレがありますよね。セオリーとしては絶対にやらないことだし、スキルがないとダサくなってしまうけれど、微妙なズレやにじみが本当に見えない部分にあって、だから記憶に残るし、心が震えるんだと思います。あれはやっぱり、すごく考えていらっしゃるんですか? 北川:そうですね。QUANTUMのシンボルも、単純に言えば同じ太さのゴシックタイプですが、「Q」のところだけ少し太らせたり、「UM」と綴るときに微妙に横線の細さを変えていたり、自分で言うのもなんですが憎いことをしています(笑)。また、「Q」が鏡文字になっていて、最初にも話した“あの世とこの世のあべこべ”みたいなものが形になっているんです。その辺のコンセプトを、うるさくならず厳かに表現していくというのがこのプロダクトの展開においては重要だと思います。やっぱりそういった考えは、細部に宿りますからね。 加藤:北川さんの作るものにはいつもそういう部分が隠されていて、それが人の心に引っかかるんですよね。 QUANTUMのプロダクトは今後もいろんな展開があるということですが、具体的にどんなことを考えていらっしゃるのでしょうか。 加藤:プロダクトの展開としては、今回でき上がったものをスタンダードモデルとして、ゆくゆくはいろんな作家やアーティストに箱や香り、布などを作ってもらうスペシャルモデルも考えています。箱という形にしたからこそ、いろんな人と関係をつないで関わっていければいいなと。 北川:あとは、この空間に「食」があるといいという話もしていますね。 加藤:食べたり、泊まったり、根本的な体験の中でQUANTUMとは何かを伝えられると、より強固ですよね。 北川:ずっと話しているように「死ぬことは生きること」ですから。それが生命全体の営みならば、ここに食があるとすごくおもしろいと思います。 |
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残された人の
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加藤:今回プロダクトを作るにあたって、弔う側の気持ちにもっとフォーカスしたいということをずっと考えていました。最近「墓じまい」という言葉をよく耳にしますが、きっとみんな気持ちが無いわけではなく、残された側の心の距離感が根本的な問題なのではないかと思います。お葬式やお墓や仏壇がどうこうより、残された人の気持ちの拠りどころの方が本当はもっと重要なんじゃないでしょうか。 北川:そこはすごく共感します。少し前にうちで亀を飼っていたんですけど、その亀が死んだんですよ。いま僕は東京の代官山に住んでいるのですが、埋めてあげようと思って子どもと一緒に場所を探しに行ったら、埋められる場所がどこにもないんです。公園もダメで、区役所に電話をして聞いてみたら、「ビニール袋に入れて生ゴミで出してください」と言われました。残された者と言うと大袈裟ですが、亀が死んで家族が悲しんでいるときにそんなこと言われて。 死にゆく生物と残された生物がいて、QUANTUMでは残された側の気持ちによりフォーカスしてゆく。そこが、昨今の儀式や、いま世の中にあるプロダクトとの大きな違いかもしれませんね。 加藤:僕も、このプロジェクトに携わって1年ぐらい経ったとき、父親が急な病気で亡くなりました。身内が亡くなると特にいろんな感情が湧きますが、「人はやっぱり死ぬんだ」ということがすごくリアルだったし、それ以降、僕は事あるごとに「どうせ死ぬんやから、がんばろう」と言っています。それはネガティブな意味ではなく、死ぬことはみんな平等に決まっているから、じゃあその間に何ができるかということです。死ぬことを意識しないと生きることも希薄になってしまうということは、コロナ以降、特に考えるようになったことですね。 北川:生き物は絶対にいつか死ぬんですよね。でも、死ぬということは生物が進化する上でとても重要なことで、DNAレベルで言えば、死ぬことは進化の多様性ということでもあるんです。 |
新たな弔いと、
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宗教というものに寛容で多様性を持てるこの国だからこそ、葬儀や弔いの本質に立ち戻るきっかけを与えていく。そんな想いから生まれたQUANTUMが、今後どういう風に広がっていくと想像しますか? 加藤:僕は、QUANTUMの概念や世界観は、国や人種に関係なく根本的に通じ合える部分があるんじゃないかと思っています。今、世界中で分断が起こっていますが、いつかは死ぬという当たり前のことを意識して一人ひとりが心の持ちようを変えれば、こんな酷い世の中にはならないのかなという気がしていて。少し大袈裟かもしれませんが、QUANTUMはものでありながら思想でもあるので、それが広まっていくことでもう少しマシな世の中になってくれるんじゃないかと期待しています。 北川さんはいかがでしょうか。 北川:願わくは、原理主義的な宗教や政治思想のようなものとはまったく無縁に、きれいごとでもなく、あらゆる人たちが生きることについて考えられたり、弔いの心や感謝の気持ちを持つきっかけになってくれるといいなと思いますね。単にものを売るのではなく、死生観や心の拠りどころについて一緒に考えていくことがQUANTUMのDNAでありアイデンティティで、そういう人格を持ったブランドというのは、今の世の中において重要な存在になり得ると思います。 多くの死と向き合って、ずっとこの変化を見てこられた臼井さんを前にこんな話をするのは、釈迦に説法なのですが。 臼井:いえいえ、でも我々はいま本当に大きな変化の渦の中にいます。それでも人間は弱いもので、どこかに癒しを求めたり、亡くなった人に対して感謝の気持ちを伝えたいという思いの根源はいつまでも残っているんです。その一助となるのがこのQUANTUMなのではないでしょうか。お二人の力を借りて、これが新しい弔いの心のようなものになればいいなと私も期待しています。 |
Profile
加藤駿介( NOTA&design代表 )
1984年、滋賀県信楽町生まれ。大学在学中にデザインを学ぶためロンドンへ留学。広告制作会社に勤務後、信楽へ戻り陶器のデザイン・制作に従事する。2017年に自社スタジオ「NOTA&design」、ギャラリー&ショップ「NOTA_SHOP」を設立。陶器制作、グラフィックデザイン、インテリア設計、ブランディング等を手掛ける。
北川一成( GRAPH代表取締役/デザイナー/アーティスト )
1965年、兵庫県生まれ。あらゆる領域におけるビジュアルデザイン、ビジネスやコミュニケーションのあり方までを設計するブランディングを多数手掛ける。AGI(国際グラフィック連盟)会員。ADC賞、TDC賞、JAGDA新人賞、JAGDA亀倉雄策賞ほか受賞多数。NY ADC賞、D&AD賞をはじめ、国内外の審査員を歴任。
Staff Credit